愛と沈黙

2011年 2月 05日(土曜日) 20:56 南天
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         愛と沈黙

                 

             

愛のなかには言葉よりも 多くの沈黙がある。

愛の女神アフロディーテは海から、とりもなおさず沈黙が生まれた。

アフロディーテは また月の女神であって、月は地球上にたれるその金色の網のなかに、夜の沈黙を とらえるのである

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愛しあうふたりの人間の言葉は沈黙を増大する。

沈黙は彼らの言葉のもとで増大する。

相愛の人々の言葉は、

ただ沈黙を耳に感じ得るものにするために役立つだけである。

語りつつ沈黙を増大すること・・・・・

それを出来るのは 愛だけだ。

あらゆる他の現象は沈黙を蚕食する。そして沈黙からその一部を奪い去る。

ただ愛だけは沈黙に与えるのである。

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 相愛の人々はふたりの同伴者ーー「沈黙」との同伴者ーーである。

恋する男が恋人に語りかけるとき、恋人はその言葉よりも沈黙に聴き入っているのだ。

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「黙って!」 と彼女は囁いているようだ、

「黙って! あなたの言葉が聞こえるように。」

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沈黙のなかでは過去、現在、未来が、一つの統一体をなして併存している。

だから、相愛の人は時間の経過から解き放たれている。

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何物もまだ生じていない。

万事はこれから生じ得るのだ、

・・・・・未来においてあるだろうことは、既にそこにある、

・・・・・過去において生じたことは、いわば永遠なる現在のうちに現に存在している。

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時間は愛し合う人々のもとでは静止しているのである。

相愛の人々がもっている鋭い予感と明敏な洞察力とは、

愛のなかでは過去、現在、未来が一つの統一をなしていることと関連しているのである。

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                                      ・

愛のもとに必ず存在している沈黙によって、言葉は日常の?忙から救われ、

自己の根源へと、すなわち沈黙へと連れ戻されるのである。

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相愛の人々は、太初の状態の近くにーーそこにはまだ言葉はないが、しかし何時なんどきでも充ち満ちた沈黙から言葉が生まれ出ることの出来る、

あの太初の状態の近くにーーいるのである。

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ひとりの人間が愛によって経験し得るさまざまな転生はすべて、

この始原の現象が人間を

一つの新たなる発端のまえに立たせることに由来しているのである。

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そして、人間が愛からうけとるあらゆる力は、愛が始原の現象としてそなえている力から生まれ出るものに他ならない。

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相愛の人々の顔は かがやいている。

彼らの顔は透明である。

愛という始原の像が彼らの顔を透して かがやいているのだ。

だからまた彼らの顔はふだんよりも一層美しくなるのである。

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相愛の人たちの顔は浮かび漂っているようである。

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相愛の人たち」が おのずから身におびているあらゆる神秘性は、

始原の像が近くにあることに由来しているのだ。

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愛のなかには言葉よりも多くの沈黙が含まれている、と私は言った。

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愛のもとにあるこの充実した沈黙は、

実は、死のもとにある沈黙にまで達するのである!

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愛と死とは もともと互いに一体をなしているのだ。

愛のなかにあらゆる思想や行為は、

沈黙によってすでに死へと続いているのである。

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しかし、愛の驚異ともいうべきは、

死が存在するかも知れない場所、そこに愛人が立ち現れることなのである。

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まことに、愛のなかには言葉よりも 多くの沈黙がある。

だから、「愛することは、語っているときよりも沈黙しているときの方が、比較にならぬほど容易なのである。」

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われわれが沈黙しているときには、愛することよりも容易であろう。

そして、沈黙しつつ愛することが、容易なのは、

沈黙のなかでは愛が最もはるかな遠方にまで

自己を展開することが できるからに他ならない。

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    ピカートの「沈黙の世界」から抜粋

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亡き人を思うひととき・・・

          愛が帰っていく場所・・・・

                         沈黙の世界

                                    ・

                                 櫛引

                                    ・

                                                                                             

                                                           

 

最終更新 2011年 2月 09日(水曜日) 14:14